「ハーフだから自由人」、偏見をぶつけられていた私 隣のあの人を傷つけないために考えたいこと
学生時代のチベット旅行中の一コマ。寝台列車内でエヴァンゲリオンを見ています
25人に1人、身近な存在
皆さんは、「ハーフ」という言葉になじみはあっても、ミックスルーツという言葉はあまり聞いたことがないかもしれません。
ミックスルーツとは、複数の人種的・民族的ルーツを持つ人々のことで、「ハーフ」「クォーター」などの総称として、ここ数年、新聞記事でもよく使われるようになりました。
皆さんの中にも、ミックスルーツの知り合いがいるという方は多いのではないでしょうか。
それもそのはずで、国の人口動態調査によると、2013〜22年に日本で生まれた子のうち、両親か片方が外国籍の子は年間3万2千〜3万6千人ほど(全体の約4%)。
少なくとも25人に1人はミックスルーツという計算になります。統計上では確認できませんが、人種的・民族的ルーツを含めれば、実際の割合はもっと高いはずです。
身近な存在だけど、意外と知る機会が少ない――。
私のレターでは、そんなミックスルーツについて個人的な体験とともにお話をさせてください。
小学生4年生の筆者(左下)、弟、両親。観光で万里の長城を訪れました
思い込みによる差別は日常茶飯事
私が自分のルーツについて自覚するようになったのは、小学校高学年のころでした。
「小川くん、天然だよね。お母さんが中国人だから?」
あるとき、小学校の同級生からそう言われました。
この言葉が、思い込みによる日常的な差別「マイクロアグレッション(microaggression)」だったとはっきり認識したのは、新聞記者になった後のことでした。
「ハーフだから自由人だね」
「中国人って空気読めないよね」
「ハーフなのに英語話せないの?」
いずれにも言えることですが、ハーフや中国という属性と、性格・能力は本来、因果関係はありません。
たしかに1回言われただけで、深く傷つくことはまれですが、繰り返しチクチクと言われ続けることで、心のダメージは蓄積していきます
ミックスルーツ当事者にとって、当時からこういったマイクロアグレッションは日常茶飯事でしたが、今も状況はあまり変わっていません。
98%が差別された経験
米カリフォルニア大学客員研究員の下地ローレンス吉孝さん(国際社会学)らが昨春、ミックスルーツの成人448人に実施したオンラインアンケートによると、マイクロアグレッションについて、回答者全体の98%が「経験した」、68%が「1カ月以内に1度以上経験」と答えました。
よくあるマイクロアグレッションの事例としては「ハーフだから英語がペラペラ」「ハーフだから美人」などが挙げられています。
下地さんは「98%という数字にも衝撃を受けたが、日常生活の様々な場で『日本人か外国人のどちらか一方であるべきだ』という排他的な規範がいかに根づいているか、ということを改めて感じた」と振り返っています。
これらの調査結果を紹介した朝日新聞デジタルの記事では、「深刻な数字だ」などと反響が広がりました。
学校DE&Iコンサルタントの武田緑さんも、コメントプラスで「ネット調査なのである程度課題感を強く持っている人が回答しているであろうことを加味しても、実態が深刻ですね」「実際に学校現場で見聞きする情報や実感と一致する・・・とも思います。自傷行為、自殺未遂、自殺念慮の高さや、若い世代のメンタルヘルスの状況の悪さもものすごく気がかりです」とコメントしてくれています。
この数字は、ミックスルーツ当事者からすれば、それほど意外ではないと感じる人が多いのが実情です。
これは、日常的な差別の多くが無自覚になされてしまっているがゆえ、非当事者側との意識のギャップが生まれているのだと思います。
そんな当事者である私自身も、過去に別のルーツを持つ当事者を傷つけてしまったと、後から気づいた経験があります。
自分の心にある無意識の思い込みや、無自覚な差別をなくしていくために、まずは当事者の声を聴いてみませんか。
このレターでは、ミックスルーツの当事者の声を紹介していきます。2月15日に配信予定の回では、就活中に思わぬ形で涙を流すことになった学生のお話を紹介します。
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